居心地という音楽

よく建築は音楽にたとえられます。
確かにある空間に身を委ねていると、耳に聞こえる音以外に、見えてくる音があります。
それは誰かが何かを意図して作った空間の軌跡です。

 

音楽の趣味というのは人それぞれで、聞きたい日もあれば聞きたくない音もあります。
私は職業柄、できれば休日は何の音も発しない空間にいたいと願うものです。
この春、何年かぶりに日本の宿へ出かけました。
商売としての宿泊施設に無音を求めるのは不可能ですが、
その中に亭主の美学が貫かれた、隅々まで調和の取れた空間とサービスに、ほっと一息付けたのでした。
その宿の奏でる音楽に浸っていると、亭主と静かに対話を楽しんでいるようなそんな気分でした。目に見えるものを操作することがデザインだと思われがちですが、そこにひとがいて初めてひとつの曲になるんですね。