家はあくまで生活の器でありたいと思います。器は彩られる生活と一体となり、その家にしかない空気感を醸成します。また親しみ深い器があることで、それまでの生活が一段と深く感じられるようになるものです。そのためには器が立つようであってはならないと考えています。ひとが住まう以上あくまでそこに彩りを添えるひとと共に、家が社会や環境に属する以上街並や風景と共にありたいと願います。
家づくりはお互いに何も知らないところから始まり、そのひとの人生の価値観をひとつの形にする壮大な試みです。それにはまず感覚を共有することが何より大切だと考えます。言葉を介して共通の認識となるための時間も必要です。時間は信頼や仕草、縁といった言葉にならない大切な価値観に気付かせてくれます。感覚を共有できるとどんな家が出来るかという不安が期待に変わります。
家は見て触れられる素材で出来ています。しかしながら家のもつ独特な空気感は素材を組立てただけではできません。そこに関わるひとや技術、風や光といったものも素材として捉え、与えられた環境と共に解かないと空気感は醸成されません。それは素材だけでは料理に、楽譜だけでは音楽にならないのと似ています。そこに関わるすべての素材が意志の下に調和して初めて到達できるものなのです。
家は住処であり生活の拠り所です。澄んだ空気のような住まい心地は心にゆとりをもたらします。そうあるためには構造的な安心や光熱費はもちろんのこと、ストレスのない使い勝手や肌に馴染むような質感など、住み始めて初めてわかる様々な事柄を事前にどれだけ予測できているかが重要です。たったひとつの家づくりだからこそ、事前に検証や実験をし、言葉による説明が大切だと考えています。